
今の心理職の業界では、BPSモデルが重視されています。
難しいことばではあります。
少し解説しましょう。
今日の、特に精神科医療を例に挙げて説明すると、そこではさまざまな専門性をもった職種が「チーム医療」を進めていきます。
医療の中で中心的となるのは、もちろん医師です。医師はその教育過程で身体を中心とした教育・研修を受けてきます。心の問題については、脳神経系のアプローチをして、脳内伝達物質から適切な薬物治療を行っていきます。これが「生物学的な見方(Bio、バイオ)」として位置づけられます。
しかし、人間を生物としてとらえるだけでは不十分で、心をもった存在としての人間を見ることも重要な視点となります。ここで「心理学的な見方(Psycho、サイコ)」を併せて見るために、医療機関で働く心理職は、その専門性を発揮していきます。
加えて、人間は心の中でどう物事を考えたり感じたりするのかだけではなく、社会を形成してどのようにして社会の中で生きていくか、という側面も大切になります。精神科に限っていえば、ソーシャルワーカーという職種があり、就労や居住に関する問題を考えていきます。こうした「社会的な見方(Socio、ソシオ)」も重要な視点になります。
このように、バイオ、サイコ、ソシオという三次元の視点をもって、援助対象者を考えていくことがチーム医療として重要視されています。
当室のように、心理の立場から援助を行っていく場合でも、このBPSモデルは案外意識していることです。
医師ではありませんが、体を考えることは何気ない声かけや医療機関を受診すること、医療機関では投薬を受けていることに配慮しています。
慢性の内臓疾患でくたびれた方もおられます。
身体の苦痛を感じて苦労されている方もおられます。
何でも心理的アプローチは行いません。
必要な身体科受診を勧めています。
特に投薬を受けている人には、何を処方されているか、正確に尋ねて、お薬のガイドブックを一緒に見ながら、お薬の作用と副作用を確認していきます。
こんな方に昔お会いしたことがあります。
昔、私が精神科に勤務していた頃、主治医から処方を受けていた患者さんがいました。
それを服用して楽になっているか、と尋ねると「飲んでいない」と答えます。
副作用があって飲まないのか、尋ねると、「こんな薬を飲んでいるから病人扱いされる。だから飲まない」と答えました。
「お医者さんはお医者さんの立場からあなたを援助しようとしている」ことを伝えました。ぼんやりして否定的な態度でした。
「援助者にはそれぞれの立場がある。心理療法・カウンセリングはどう考えているのか」と問うと、「ああ、このつらい気持ちを聞いてもらえるので。でも治らない」と不満まじりに答えました。
心理療法もうまくいかず、本人が焦って就職を決めてしまい、中断になりました。
再発していないことを願っていますが、あまり期待はできませんでしたし、再来院されても厳しく受診契約、面接契約をするつもりでした。
その後のことはわかりません。
当室は心理職の立場から援助をしています。
ですが、「サイコ」だけが重要とは思っていません。
「バイオ」や「ソシオ」にも目を配っています。
バイオの立場から投薬があるクライエントさんの話は述べました。
「就労がうまくいかない」「今は休職中だが、復職をどうすればいいか」「休職期間がいっぱいになる。転職をどう進めたらいいのか」「転職後が見つからない」などの相談もお聴きします。
残念ながら、「ソシオ」の立場からの具体的な援助はできないので、社会資源に頼るしかありません。
そんな中でも、アルバイト勤務、パート勤務、非常勤勤務、派遣社員、常勤勤務など、さまざまな形態で現在の回復状況に合った勤務をされているかどうか、賃金が安いことをどう思っておられるか、もっと充実感がほしいと願っておられるのか、世間体が悪いことから常勤勤務を気にしすぎておられるのかどうか、など、常に配慮しています。
「カウンセラーに話を聞いてもらってスッキリしたい」という要望をしてこられる方もあります。
そんな単純な話ではないですよ、という気持ちを込めて、メールにお返事することもあります。
私は一時的欲求の満足・充足ではクライエントさんのお役に立てないと思っているのです。
ちょっと厳しい話をしたかもしれません。
少しでも快方に向かうことを当室では重視しています。
バイオ、サイコ、ソシオの多元的視点も大切にしながら、心理士としてサイコの立場で援助を行っています。