
内田裕之です。
最近、複雑性PTSDのクライエントさんにお会いする機会がありました。
他でも、現場で働く方々から耳にする機会が増えました。
私の出会ったクライエントさんとは心理療法関係に入ることはできず、初回にお会いしただけになりましたが、強く印象に残っています。
しっかり理解できるように勉強し直そうと思い、アリエル・シュワルツという人の書いた「複雑性PTSDの理解と回復」(金剛出版)を手に入れました。
ただ、一人で読むのではなく、児童養護施設で勤務する信頼できる知人と読書会を始めました。その人は複雑性PTSDを多くお会いされてきているので、有効な議論が展開できると考えてのことです。
この本はPTSD当事者にも読んでもらいたいという著者の意向で書かれています。
なので、専門用語を使わないわかりやすい本として書かれていて、PTSD当事者の方々の手助けとなりますし、援助者の我々にはクライエントさんに働きかけるコツや生のことばかけの様子も伝わってきます。
また、実際の事例とのやり取りが必ず書かれていて、PTSD当事者の大変さを垣間見ることができるし、どういう働きかけで安定につながるのかがつぶさに描かれています。
子ども時代に親や養育者とうまくいかなかったという経験をもつ人に広く読んでもらいたいです。
さて、この本では、インナーチャイルドの話は少し出てきますが、本題・メインキーワードではありません。
しかし、インナーチャイルドの保ち方、インナーチャイルドとの付き合い方、インナーチャイルドの育て方への示唆に富んでいます。
この本を読んだ影響、他の本から学んだこと、私自身が教育分析で体験したこと、複雑性PTSDのクライエントさんに接した経験、今の私の暮らしから言えることなどを交えて、今、考えたり感じたりしていることを書いてみます。
何かの参考になれば幸いです。
今、私は猫一匹と暮らしています。
よく甘える子で、わかりやすいです。
しかし、少し前に体調を崩して入院しました。
その間、家にいる猫のことが心配で、早く体調を整えて退院したかったし、外出許可をもらって世話をしに自宅に戻ったり、友人に世話を頼んだりして、何とかしのぎました。
退院して、まだ私が本調子でないことがわかるのか、猫は甘えるだけでなく、静かに身を寄せて寝てくれたり、私を気づかってか舐めてくれたりして、しばらく過ごしました。
ようやく調子が戻って、迷惑をかけたぶん、丁寧に世話をしました。
そんな中、猫の世話をしながら、自分のことを考えました。
「私は猫だけでなく、持病のある自分を世話しなければならない」という結論がふと頭に浮かびました。
たまたま私の心の外にいる猫と接しながら、持病のある自分、傷ついている自分の内界の姿を見ました。
猫にご飯をあげて、食べ終わった頃に「ご飯、美味しかった?お腹いっぱいになった?」と必ず声かけをしています。
自分に対しても「ご飯、美味しかった?お腹いっぱいになった?」と声かけをするようになりました。
そうです。
これこそ私のインナーチャイルドへの声かけなのだと気がつきました。
「おはよう。今日は朝すっきり目覚めた?」
「朝ご飯を食べようか?」
「朝ご飯、美味しかった?お腹いっぱいになった?」
「お腹いっぱいになったから、ちょっと横になって休もうか?」
「あれあれ、うたた寝しちゃったね。気持ちよかった?」
などなど、無数の自分への声かけをするようになりました。
私が私のインナーチャイルドを育てることはこういう感覚がもてたことがきっかけです。
ちなみに、20代から始まった教育分析の経験の中で、分析をお願いした当初の主訴がありました。
教育分析ということで、悩みのない私が自分の内界を見るというきれいごとではなく、当時強く悩んでいることがありました。何とか解消したいと思っていました。
でも、しばらく箱庭と夢で分析を受けていくうちに、私の分析のテーマが深まり、私の恵まれない家庭のこと、私の子ども時代の大変さ、だからこんな自分を形成してきたのかなどが、どんどん明確になっていきました。
分析家の先生からある時、「内田さん、大変だったね。これからは、自分で自分を守ることを作り上げていってください」と言われました。
このことばをかけていただいたことは、私を理解してくださり、うれしかったことを覚えています。
しかし、このことばの意味が本当にわかったのは、歳を取り、病を得たことが大きいです。
自分で自分を養っていくことだったのか、とようやく気づきました。
今、私の中に小さな「ヒロユキくん」がいることに気がついています。
彼は少し病気がちですが、元気によく笑う子です。
困ること、悩むこと、イライラすることなどもちゃんともっています。
私に「ありがとう」「いただきます」「ごちそうさま」「そろそろおねむ」と素直に接してくれます。
時にはブスッとして、私に「は?」とか「わからん」「フツウ」「別に」「ウザい。ほっといて」と素っ気ない時もあります。
こんな小さなヒロユキくんを私は可愛いと思っています。
人から受けたご恩、猫がくれる幸せなどを手がかりに、私はインナーチャイルドを育てていきたいと思います。
そう言えば、私のインナーチャイルドであるヒロユキくんはその時々で年齢・発達段階が違います。
ある時は赤ちゃん、ある時はこれから就職する青年期、ある時はよくはしゃぐ5歳児、ある時はろくに口をきいてくれない思春期、などなどバラバラに現れます。
もちろん私の接し方は困りますが、まずはヒロユキくんの様子を見て、言い分を聴いて、ゆっくり丁寧に接しています。
心理学で学んだ発達理論も手がかりとしてありがたいです。
なかなか難しい毎日ですが、おもしろい体験ができています。
私のカウンセリングを受けておられるクライエントさんにも彼ら/彼女らのインナーチャイルドを見ることがあります。
そして、私ができるバックアップから、いつかご自身が自分のインナーチャイルドを大切にしていかれる日を丁寧に過ごしていかれるように、カウンセリングを進めていきたいと思います。
そういえば、手紙やメール、かしこまったやり取りの中で、相手への敬意といたわりを込めたあいさつとして「ご自愛ください」と使います。
この表現も「あなたのインナーチャイルドを大切にしてあげてください」と読み替えてもいいのかもしれません。
あまり聞かないような話だったかもしれません。
私が知識と経験を得て考えているインナーチャイルド論でした。

