こんにちは、内田裕之です。
タイトルに「育つ」と書きました。
「子どもが育つ」はイメージしやすいでしょう。
「大人が育つ」っていうと何か違和感があるかもしれません。
心理学では生涯発達という考え方があります。
人間は人生、生涯をかけてこころの発達をしていくという考え方です。
「あの人は歳を取って丸くなった」という話があるでしょ?
その方は発達されたのです。
人格が成長したのです。
こうした成長・発達の基盤は、色々な心理学者が取り上げています。
エリクソンという人は「基本的信頼感」と呼んでいます。
赤ちゃんの頃、お母さんに大切にされて、子どもは育っていくと述べています。
とはいえ、お母さんは年中無休24時間営業とはいきません。
赤ちゃんが泣いても対応できないことが自然と生じます。
こういう体験を経て、赤ちゃんは「お母さんは今いないけど、消滅してしまったわけではなく、今はたまたまいない。またお母さんは現れて自分のことをちゃんと見てくれる」という感覚を持てるようになります。
ちなみに「基本的信頼感」と訳されていますが、原語は「basic trust 」で、この「trust 」には「担保」という意味があります。
赤ちゃんは人生の最初にお母さんから愛情という「担保」をもらうわけです。
しかし、人生を過ごしていく中で、人間は苦労をしながら時を過ごしていきます。
小学生になっても、まだ「抱っこ」というスキンシップはあります。子どもは安心します。
抱っこだけではなく、ことばで「頑張ったね」と褒めてもらうこともあります。
あるいは、感想文を書いて入賞するなど評価される機会も出てきます。
こうして子どもは健全に発達していきます。
さて、大人の場合、もはやお母さんの抱っこは無理ですね。でも、職場での評価という風に形を変えて、信頼感や安心が得られます。
それは小さな声かもしれません。
大人は、お母さんに大事にされたことで、自分が育っています。お母さんに大事にされて育った自分が困っている自分を支えるということができるようになります。
私は大学教員をする傍ら、カウンセラーをしています。もはや母も他界しています。大学の講義をする中、「自分は頑張ってるぞ!」と自分を励ましています。
また、講義の感想を学生に書いてもらって「おもしろかった」という感想があれば元気が出ます。
カウンセラーをしていても、思い詰めた顔をして来られたクライエントさんがすっきりした顔で帰られるのを見てうれしく思います。
また、仕事が行き詰まった時、ふと師匠の声が聞こえたり、夢に出てきてくれたり、お書きになった本の一節がまるで私に向けて書かれたように感じたりしながら、何とか頑張っています。
そして私自身が私に「頑張ってるぞ」とエールを送っています。
カウンセラーとしてクライエントさんにエールを送っています。一緒に悲しみ、一緒に喜ぶをモットーに、クライエントさんのお話を丁寧に聴いて、クライエントさんが感じていることを同じように感じて、アプローチしています。
人生の最初にお母さんからもらった担保をもとに、姿を変えて現れる褒めてもらえること、評価されることとして、これが大人のこころの成長につながります。
当室にいらっしゃるクライエントさんが成長していかれることをイメージしながら。
ちなみに、エリクソンは役にたついいことを言っていますので、その考え方を引き続き紹介していきたいと思います。