橋のお話
2024年11月30日

内田裕之です。

私の家から駅に行くまでに川があって、小さな青い橋があります。
老朽化したため、錆がひどくて、ペンキの塗り直しと補強工事をするために、約3か月通行できなくなりました。

迂回して別の橋を渡って駅まで歩くことになりました。
不便です。でも橋がなければ、向こう岸の駅までは行くことができません。

昔の時代では、どうだったのでしょう。
向こう岸はアクセスのできない場所。
どんな風に受けとめられていたのでしょう。

川で隔てられた両岸の間では、交通・交流ができなかったでしょう。

話は心理療法に変わります。
私が尊敬するレオポルド・ソンディという先生は、「橋を架ける」ことを強調しています。

それまで交流・つながりのなかった二つの対岸、あるいは対立物に橋を架けることに注目しました。

ソンディが考えた対立物は以下の通り。
8つあります。

①全能と無能
全能だと思い込んでいても、無能・愚者の働きで事態が改善される話は、三年寝太郎や姥捨山などの昔話にも見られます。
全能と無能を切り離すのではなく、橋を架けて行き来させることは、大切なのかもしれません。
時に賢明に、時に愚かに、という生き方はどうでしょう。

②人間としての精神と生物としての本能
人間は己を律する気高い精神を持っています。しかし、生き物でもあります。気高く振る舞っても、本能・欲求・衝動が切り離せません。
人格者と言われる人が何でもコントロールできると考えるのは間違い。時として、人格者が軽率な行動をしてしまう例はたくさんあります。
精神と本能を切り離すのではなく、両方を見据えて人間らしく生きることが大切なのかもしれません。
こんな生き方を考えてみてはどうでしょう。

③無意識と意識
これは深層心理学者らしい考え方です。無意識は夢や失敗行為や何気ない選択の中に現れてきます。知らず知らずのうちにしてしまったことです。自分の無意識の世界、夢などに目を配ると、豊かな生活が送れるかもしれません。
当室では、夢分析を行っています。夢占いではありません。夢に出てきた無意識のメッセージを自分の意識の中に組み入れることで、より自分らしく生きていけることを考えています。

④主観と客観
この対立はもう昔から相容れない問題として固定化されています。しかし、客観を踏まえた上で主観を述べる、主観から入ったけどきちんと物事を見据える、というバランスの取れた状態にある人を見たことはありませんか。
データ至上主義で客観に偏ること、自分の感じた主観だけで物を言うこと、この偏りがよろしくないです。
バランス感覚を考えてみてはどうでしょう。

⑤女性らしさと男性らしさ
今日、トランスジェンダーのことはよく耳にします。「男は男らしく」「女は女らしく」という価値観はもう過去のものです。
ここで述べているのは、そういう価値観の変化ではなく、「(女性らしいしなやかさを持った)男性」「(凛々しさや逞しさを備えた)女性」という話です。
当室では、恋愛や結婚生活でうまくいかないカップル・夫婦カウンセリングを行っています。どちらのサイドにもつきません。お互いが違う意見を述べる場ではなく、二人に橋を架けることを考えています。

⑥身体・からだとこころ
最近では脳も臓器の一つで、心の病気は脳にある、と考える精神科医(生物学的精神医学とも言う)が多いです。そのため、心理職はなかなか理解されません。
対立的に見るのではなく、「気に病む」と書いて病気。「風邪をひいても気分が落ち込む」ということもあります。分けて考えるよりは、一つの困った出来事として、まとめて考えるのがよいのではないかと考えています。
「病院に行くのが怖いからカウンセリングで」という方もおられますが、当室では医療のサポートが必要な方には受診を勧めます。やはり両方が必要なのです。

⑦覚醒と夢
私自身、訓練として夢分析を長く受けました。訓練が終わって、記憶力がよくなりました。観察力もよくなりました。
ギンギンとした目で見るだけでなく、少しぼやけた曖昧な目の両方が育ったのでしょう。覚醒はしているんだけど、どこか夢を見ているような感覚。これをユング派の分析家、織田尚生先生は「現実を夢のように聴いて、夢を現実のように聴く」と述べておられます。
当室では、教育分析も行っております。心理療法家として、成長していかれることを望んでおります。

⑧此岸と彼岸
生と死には大きな溝があります。あの世とこの世、もう亡くなった人には会えません。ものすごくつらいことです。
私自身、両親、尊敬する恩師、大切な友人を亡くしてきました。ふとしたことで「あの人ならこうするだろう」と示唆をもらえることがあります。その意味では、私の中で死んでいません。生きています。
大切に可愛がっていた犬も歴代、虹の橋を渡りました。相当なショック、悲しみに襲われました。
なかなかつらい気持ちからは解放されません。ある程度の時間が必要なようです。また自分一人で抱えるのではなく、周囲の人が支えてくれるのも大きいことです。
当室では、グリーフケアも行っております。カウンセリングの専門性を活かして、つらい気持ちを抱えた時期を大切な時間としていけるようにサポートしていきます。

何だか、当室の宣伝みたいになりました。
ソンディの影響を受けて、私なりに身につけたカウンセリング・心理療法の視点。
それだけソンディが偉大だったということが言いたかったのです。

渡りたいけど渡れない川を前にして、いかに進むか、考えるお手伝いをしていきます。
あるいは、渡るための橋造りのお手伝い。少し遠回りだけど迂回路を見つけるお手伝い。どうぞ諦めないで、人生をより豊かにしていきましょう。

長くなりました。今日はこれで失礼します。